ママ下の湧水

 現在の国立の中心はJR国立駅周辺ですが、この地域は現在の市街地を開発するまで北辺の片田舎にすぎませんでした。国立市のかつての中心は、豊かな農村地帯であった谷保にあったのです。

 その谷保の農村を豊かにしていたには、これら豊富な湧水です。谷保には青柳崖線と呼ばれる多摩川の河岸段丘が東西に走っており、この崖下のあちらこちらから豊富な湧水が、現在も湧き出しています。周辺地域では日本名水百選にも選ばれた国分寺の真姿の池湧水群が有名ですが、総水量・湧水源の数ではこちらが圧倒的です。いまだにあちらこちらから湧き出す湧水源の多さは、谷保がいまでも自然豊かな地域である証明と言えるでしょう。

 その中でも、特に農村の風景を色濃く残す、水量豊富な湧水源として、このママ下の湧水が挙げられます。ここでは今でも湧水を水稲栽培に使い、子供たちや大人も水遊びを楽しんでいる場所です。ちなみに『ママ』とは、この谷保・青柳辺りで崖を指しているようです。周辺では『ハケ』と呼ぶ崖を、何故ここだけは『ママ』と呼ぶのか、よく分かりません。


 しかし、残念ながら、その谷保も開発行為とは無縁ではありません。無謀にも東京都は、わざわざこの貴重な湧水の上に4車線道路を敷設する工事を進めています。この道路は府中市内の府中四谷橋と甲州街道を結ぶ幹線道路として計画されているものですが、何を考えてこの貴重な湧水源にフタをするのか理解に苦しみます。用地買収も進み、唯一保存されることになった崖上のコブシの樹の移植も2001年春に完了し、まもなくこの場所は排気ガスの充満する空間となってしまうでしょう。

移植を待っていた頃の崖上のコブシの樹。
移植のために細かな根を出させる
「根回し」という作業のために、約2年必要らしい。
「根回し」とはこっちから来た言葉ですが、
なんとも生々しい言葉だなあ。

 道路が破壊するのは、湧水の景観だけではないはずです。東京都は湧水源そのものは道路下で保護する計画のようですが、道路が開通すれば周辺の開発も急ピッチで進み、谷保の農村風景が消滅することは間違いありません。財政危機の折、必要性に疑問のあるこの計画は無期限凍結、廃止すべきものだと思います。

都道の下に隠れることになる湧水源。
のどかな日向には、昼寝をするために来る人もいる。

 

ママ下の湧水

場所 国立市谷保6410付近
交通 JR南武線 矢川駅 徒歩15分
特記事項 東京の名湧水57選

Mapionで場所を確認する。


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