多摩川の堤防上に立つクロマツ。4本しか見当たらないのですが、「五本松」です。1988年の「府中の名木百選」写真集には5本のマツが写っているので、この間に何らかの原因で1本がなくなったものと思われます。
五本松の起源は江戸時代中期に遡ります。「府中の名木百選」写真集には、次のように書かれています。
『江戸中期に甲州からきた商人が急病で倒れた時に四ツ屋村の人達がこれを助けました。後に成功した商人は四ツ屋村の人々の恩に報いるため、玉川寺に木像を、多摩川堤に村の一社一寺三十八戸に因んで38本のクロマツを植えました。
後に、木像は火災で焼失し、クロマツも村民の薪になるなどしていつしか5本になったと云われています。初代のマツは枯れましたが、多摩川の変遷と人の暮らしを見続けながら村民の心情を伝えてきた由緒を守るために植えたのが現在の五本松です。』
最初38本あったマツを薪にしてしまったあたりから、美談が何だか情けない話になってしまっていますが、残った5本のマツも残念ながら現存せず、1983年の「府中市の老樹・名木」によると、1975年に枯れて伐採されています。
ところで、多摩川で五本松というと、四谷の五本松より有名なものに「狛江の五本松」があることを付け加えておきましょう。狛江の五本松は、調布市・狛江市の境界付近に立ってい群植で、かつて調布市に映画撮影所が多かったことから、多くの時代劇のロケに使用されて有名になっています。その点、四谷の五本松は背景のセメント工場をどうしても隠すことができないので、写真を撮るのにも苦労してしまいます。