多摩市と町田市を隔てる境界線は小高い尾根線です。尾根の北側は多摩ニュータウン、南側はいまだに深い森と、その合間に田畑が広がる農村地帯になっています。
その尾根のわずかに北側、市境をすぐ目の前にする一本杉公園に、多摩市の天然記念物に指定されているスダジイがいます。野球場を見下ろす高台に、給水施設の塔を背後にして、スダジイはいます。
なんと美しい樹冠でしょうか。これだけ球状に整って、しかも豊かに葉を茂らせるスダジイを見るのは初めてです。相当古い樹であることは間違いないはずです。だとすれば、このあたりがまだ深い山林だった頃からここにいるはずです。なのに、どうしてこのような美しい姿に育ったのでしょうか。
樹冠の下の幹を覗き込んでみます。すると、主幹はすらりと立ち、大枝がたくさん広がって、さらに小枝がまんべんなく広がっています。荒々しく曲がりくねった大枝もありますが、それが全体の姿を崩すこともありません。樹の社会も、ほかの樹との生存競争があり、それに勝たなければ大木には育ちません。この幹を見ていると、このスダジイはとても幸運な樹だったのではないかと思います。
一本杉公園のスダジイの近くには、都天然記念物の平久保のシイもいます。一本杉公園のスダジイの美しさとは対照的な、荒々しい姿のシイです。ぜひ同時に訪れてみてください。
この2本のスダジイがいる地域は、多摩ニュータウンの開発に伴って、1973年に町田市から多摩市に移管された地域です。町田市側でもこのあたりには市の天然記念物に指定されているスダジイがあります。スダジイの大木がこれだけ残ったいるのは、丘陵地域が農耕に適さず、武蔵野特有の雑木林(落葉広葉樹林)に転換されなかったことが大きいのではないかと思います。