白山神社の大ケヤキ

 1989年の環境庁調査で、東京都内でいちばん大きな(太い)ケヤキとされた練馬区の「白山神社の大ケヤキ」が、近年衰退が激しいと聞いたので、8月の暑い日、西武線に乗って見に行きました。

 白山神社には2本のケヤキの巨樹があり、いずれも国指定の天然記念物に指定されています。それというのも、この樹は1083年に源義家が奥州征伐に向かう際、戦勝祈願のために奉納したものとされているためです。府中の「馬場大門ケヤキ並木」も、1062年に源義家とその父・頼義が奥州征伐の帰りに奉納したものが起源とされており、「白山神社の大ケヤキ」より先に国指定天然記念物となっていましたが、源父子当時のケヤキは残っていません。

 巨樹ものの本では、2本あるケヤキのうち、石垣下にある方が最大のケヤキだとしているものが多いのですが、これは誤りで、実は石垣上の、どちらかと言えば細く弱々しい、この写真の樹が、最大とされたケヤキです。多くの本の著者が誤った理由は、どう見ても石垣下のケヤキの方が太く立派なためであり、また、実際に計測をしていないことが原因でしょう。ある本には、練馬区公園緑地課でも1994年頃に文献を探してはじめてその事実を知ったとされており、1988年の調査でも実際には計測が行われていなかった可能性があります。


さんざん勘違いされ続けた石垣下、幹周8mのケヤキ。
とは言っても、8mも都内のケヤキでは5指に入る立派な巨樹だ。
本命のケヤキはこのケヤキの裏にある。

 どちらにせよ、東京都最大とされたケヤキは、10mといわれた主幹を失い、幹周7mの弱々しい支幹が柱のような姿で立っていました(主幹7mというのも怪しいものです)。実体のない記録に振り回されていたのか、という気にはなりましたが、一方で、それでは同じ10mで第2位の府中「矢島稲荷の大ケヤキは東京都最大のケヤキの称号に相応しい巨樹なのか、という疑問もありました。なぜなら、「矢島稲荷の大ケヤキ」は毎年豊かに葉を茂らすとはいえ、その大部分は空洞にコンクリートを詰めた人工の幹なのです。すると、本当に相応しいのは、今まで第3位とされていた青梅・御岳山の「神代ケヤキ」になってしまいます。

 順位は争いだすと切りがないと言われます。全国各地で巨樹ブームが起こり、新しい第1位が発見されたかと思うと、すぐに別の第1位が現れます。計測方法の微妙な違いもあります。

 おらが街にこそ第1位の樹を、という気持ちは私にもありますが、順位は所詮人間のエゴでしかありません。樹自身は、そんなものを争ってはいません。そんなことより、数百、数千年生き続けてきた彼らに、私たちはどう接していくべきなのか、考えてみるべきでしょう。「白山神社の大ケヤキ」は、小さく静かな境内で、そう語りかけているように思いました。

 

白山神社の大ケヤキ

場所 練馬区練馬4丁目2番地 白山神社
交通 都営大江戸線 豊島園駅 徒歩5分
樹のデータ 上の樹 幹周7.2m 樹高14m
下の樹 幹周7.5m 樹高19m(2000年発行東京都資料)
保護制度 国指定天然記念物 (ねりまの名木百選)

Mapionで場所を確認する。


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