古里の集落から国道411号線(奥多摩街道)を西へ歩くこと約15分。古里附という集落に入ります。本来は古里の集落とは離れた存在だったのでしょうが、歩いて見るとどこが境界か定かではなく、それゆえに「附」なのだろうか、とも思います。ここに、東京でも屈指の巨樹がいます。
入川谷という川が多摩川に流れ落ちる場所のそばで、近接した国道とJR青梅線に挟まれるように、巨大なタブノキがそびえています。二つの太い幹からなる樹は大きな樹冠を広げ、その一部は国道の上を覆うように広がっています。一見して非常に姿の美しい樹だとどなたもが思われることでしょう。樹の大きさになかなか気付きにくいのですが、傍らには祠があります。ここはこの祠、春日神社の境内で、タブノキはそのご神木なのです。
タブノキは沿岸性の温暖な場所を好む樹です。その沿岸性の樹がどうして奥多摩にいるのかというと、古い時代に茨城県鹿島地方との交流があったためだ、と言われています。そして驚くべきことに、このタブノキは、本来の環境ではない内陸の奥地にいながら、樹種別で国内4番目という屈指の巨樹でもあります。もっとも最大のタブノキも神奈川県清川村という内陸地なのですが……
この国道は都心方面と奥多摩方面を結ぶ唯一のルートであるため、交通量も多いところです。そのためこのタブノキには多量の排気ガスという大きなストレスを受けています。更に、道路の反対側には線路が走り、電車が通るたびに大きな振動を受けています。そのことが、この樹に深刻なダメージを与えているのではないかと心配されます。ここ最近、樹冠の葉の茂りが薄くなり、枝が枯れてきているような気がしています。排気ガスと振動からこの樹を守る術は今のところ、ありません。