グラント将軍松

 芝公園の中心に位置する増上寺は広大な寺域をもつ東京でも屈指の寺院として有名です。もともとは、増上寺の寺域を含めて芝公園としていたのですが、戦後の政教分離により、都立公園である芝公園からは切り離されました。そのため、現在の芝公園はループ状の帯となって存在しています。

 さて、その増上寺の巨大な朱塗りの三門をくぐると、すぐ右手に大きな樹がいます。近寄ってみると、看板には「グラント松」とあり、1879年に植えられたものだとあります。

 グラント将軍とはどんな人物なのでしょうか。日本の幕末、アメリカは南北戦争の真っ只中にありました。グラント将軍は北軍を指揮し、北を勝利させた優秀な軍人で、後に大統領となりますが、大統領としてはあまり優秀でなかったようです。退任後、世界周遊に出かけ、その折日本にも立ち寄ってこの樹を植えたのです。その際、日本政府に、早急に不平等条約を改定するよう進言したとも言われています。

 ところで、このグラント松ですが、看板には樹種は書いてありません。一見して、日本のマツではありません。それでは何なのでしょうか。実はこの件で、「日本の巨樹・巨木」さんの掲示板でだいぶ議論させていただき、最終的に「ヒマラヤスギ」ではないか、という結論に達しました。ヒマラヤスギなのにどうしてマツと呼ぶのか。これは、ヒマラヤスギの命名に問題があるのです。ヒマラヤスギは、日本のスギのように真っ直ぐに伸び、また樹形も似ていることから「スギ」とつけられたのですが、葉をよく見てください、これは明らかにマツの針葉です。

 ヒマラヤスギ(以下紛らわしいのでヒマラヤシーダーと記します)は、明治以降日本各地に植えられ、すくすくと成長しています。日本の気候にかなり適合しているとも言われ、中には幹周4m近い巨木も存在します。が、このグラント将軍松は3mには至っていません。植樹後120年以上経つのに、よそのヒマラヤシーダーより成長が遅いのは、恐らく東側にある巨大な三門が、日中の大部分の日差しを遮ってきたことと無関係ではないでしょう。しかし、ここでは周囲に広がろうとする枝を抑えるものがほとんどありません。そのため、一般に見られるヒマラヤシーダーよりも横広がりの優美な姿をしています。このような樹形はあまり見る機会はなく、そのため私はこれはヒマラヤシーダーに近い仲間のレバノンシーダーではないかと思い、上述の掲示板で議論をしたのでした。

 

 この増上寺、同じような記念樹として、「ブッシュ槙」という樹もいます。三門をくぐって左側の植え込みに混じって植えられており、看板もありますが、槙をこのような都会のど真ん中に植えたこと自体、無理があったのでしょう、やや枯れています。植えたのはブッシュ(シニア)元大統領。現在はジュニアが大統領ですが、この槙を見ずとも、なんとも不安になります。

 なお、「グラント将軍木」という樹も別にいます。カリフォルニア州キングスキャニオン国立公園の森にいるジャイアントセコイヤで、樹高81.5m、根元幹周りは32.8mという世界でも3番目に体積の大きいとされる超弩級の巨樹です。いつかはこのグラント松も、その半分ほどには大きくなってくれるでしょうか?

 

 同じ増上寺には都内には珍しいカヤの自生木がいます。また、近くには、一見の価値ある美しい芝東照宮のイチョウが、さらに、赤羽橋の方へ少し歩くと、都内有数のクスノキの巨樹がいます。

 

グラント将軍松(グラント松)

場所 港区芝公園4丁目7番地 増上寺
交通 都営三田線 芝公園駅または御成門駅 徒歩5分
都営大江戸線・都営浅草線 大門駅 徒歩7分
JR山手線・京浜東北線・東京モノレール 浜松町駅 徒歩15分
樹のデータ 樹齢120年強
保護制度 指定なし

Mapionで場所を確認する。


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