房総半島の低くなだらかな山々に囲まれた、小櫃川沿いの内陸部。盆地状に開けた稲作地帯の中に、その巨樹はこんもりとした森をつくっていました。千葉県3大シイのひとつ、賀恵渕のシイです。
写真では見ていたものの、その独特な樹形には目を見張ります。第一印象は「登ってみたい樹」。とにかく登りやすそうな枝ぶり。東に向かって水平に伸びている大枝など、その上に腰掛けられるようにあつらえたような感じもするのです。しかし天然記念物として保護される文化財ですから、うずうずとしても登ってはいけません。
大枝は真東の方向に伸びたものが目立ちますが、もっとも枝張りが大きいのは南の方向。面白いことに西側にはほとんど枝が伸びていません。訪れた当日、風は緩く西側から吹いていました。ひょっとしたらこの風が長い時間をかけて、賀恵渕のシイをこのような樹形にしたのでしょうか。定かではありませんが、この日の巨樹巡りでは「風」というキーワードが最後まで頭から離れない原因のひとつとなりました。