ケヤキ並木として、恐らく日本中でもっとも有名で、なおかつ美しいものは、間違いなく表参道のケヤキ並木でしょう。青山通りから明治神宮への約900mにわたって、美しい並木が続きます。
単に「表参道」と呼ばれるこの道、何の参道かといえば、明治神宮です。広大な面積を誇り、まるで原生林のような静寂さをもつ明治神宮ですが、これが1915年から5年間に渡り計画的に造林された人工の杜であることは有名です。表参道のケヤキ並木も同時期に植樹されたということなので、当時からあるケヤキなら樹齢約85年ということになります。85年の間には戦争で空襲も受け、ケヤキにも少なからぬ被害が及んだと伝えられていますが、今ではその様子をうかがうことはできません。
表参道は、ケヤキ並木の美しさに惹かれるように集まった人たちが、東京でも最も洗練された文化を発信しつづけていることも知られています。同潤会アパートや、ブティック、オープンカフェなどが立ち並ぶ風景は活気に溢れています。その活気が災いして、交通渋滞による排気ガス汚染もひどく、ケヤキを苦しめているのも事実です。数年前まではクリスマスイルミネーションが施され、多くの人が集まりましたが、これもケヤキを痛める原因となっていました。幸い、現在では近隣住民が騒音等の苦情を訴えたため、イルミネーションは中止されており、ケヤキの負担は少しだけ減りました。
並木沿いのベンチや、オープンカフェに座って通りを眺めると、人の多いこと。その歩道に陰を落とし夏の日差しを和らげているケヤキの葉は、少し弱々しさを感じます。愛されるゆえに苦労も絶えないケヤキ並木ですが、これからも美しい姿でいつづけてほしいものです。