上に上にと、どこまでも伸びていくマツもあれば、この影向のマツのように、横に横にと広がっていくマツもいるのですから、不思議なものです。「影向(ようごう)」とは仏教用語で、神仏がこの世に現れた姿のことだそうです。
このマツは、江戸川沿いの善養寺境内にいます。ここを訪れた日、本当は、総武線の小岩か京成線の江戸川で降りるべきところを、私は間違えて京成線の京成小岩で降りてしまい、道に迷ってしまいました。さんざん歩いてたどり着いた善養寺の境内には人がひとりもいなくて、この奇怪なマツを思う存分眺めることができました。
このように横に広がるマツは多くはありませんが、まったくないというわけでもありません。かつて香川県にはこれと同じように横に広がる「岡野マツ」というマツがおり、繁殖面積では影向のマツより大きかったのですが、残念なことに海辺に近かった「岡野マツ」は、台風の高波を受けて枯れてしまいました。そんなわけで現在では、影向のマツは日本最大の広がりを持つマツになっています。
老木の宿命で、一時はかなり衰退し危ぶまれたこともあったそうですが、樹木医が土壌改良や根継ぎなどをして回復させたといい、今ではまったく衰えを感じさせない姿を見せています。