関東地方で一里塚にエノキが植えられていることが多いのは、ある勘違いによるところが大きいようです。徳川2代将軍秀忠に謁見した八王子代官、大久保長安は、見渡すかぎりススキの原の武蔵野で、旅人の目印になるよう、樹を植えたいと思っていたが、どの樹がいいか、秀忠に伺いを立てた。「マツではヒノキと紛らわしいので、いかがしましょう」と伺うと、秀忠は「では余の木を植えたらよかろう」と答えたといいます。余の木とは、その他の木という意味ですが、長安はこれを、エノキと勘違いしたのだそうです。
一里塚のエノキは、その名のとおり、現在のJR青梅駅から一里の位置に植えられた樹です。東西に交差する古くからの道の交差点にいて、周辺の環境はあまりいいとはいえませんでした。最初に見た瞬間は、ちょっとひどい状態だな、と思ったものです。
ところがよく見てみると、この樹はなかなか美しいということに気づかされました。古木ということもあって幹には大きな補修痕がありますが、樹勢は旺盛のようです。訪れたのは11月半ば。やや黄色味がかった葉が傾いた午後の陽を透かして輝いていました。根張りもすばらしく、太く密に広がった根が印象的です。
実はこのエノキは道路に囲まれています。駐車場に見えるところには、交差点をショートカットするように斜めの道があるのです。市の天然記念物に指定されている割に、安全対策がなされていないのが残念です。間違って車が突っ込んで、この樹の生涯が終わるようなことがあっては残念です。斜めの道は廃道にし、公園状に整備してもらえないかと思ってしまいます。