稲荷神社のムク

 先日、八王子市の図書館で「いたばしの文化財」という本を見つけました。その中に、11件の区の登録天然記念物が掲載されていたことは、嬉しい驚きでした。数字的にはあまり大きな樹が少ないのは事実ですが、これだけの件数があるというのは、区が自然保護に積極的な証拠です。

 その中で、特に目を引いた1件の樹に会いに行ってきました。それが稲荷神社のムクです。幹周4.6mというのは、都区内ではトップクラスのムクということになります。

 東武東上線の上板橋駅から、入り組んだ路地を抜けて区の中台出張所がある若木通りに出ると、途端に空気が悪くなります。環境の悪化に弱いムクノキが、本当にこんなところにいるのだろうか、と疑ってしまいます。しかし、中台交番の向かいにある稲荷神社の社殿左手に、ムクは元気に立っていました。

 上部はバッサリと切られていて、姿はあまりよくありませんが、幹は痛みもほとんどなく、それが真っ直ぐと立つ姿は美しく感じます。葉の茂り具合も健康状態の良さを示しています。何と言っても1枚1枚の葉が大きいのです。長さは優に10cm以上あり、こんなに大きなムクの葉を見たことがなかったので、驚かされました。

 このムクの樹齢は分からないそうですが、かなり昔からこの地に立っていたのでしょう。かつては中山道と川越街道の間道の目印として知られていたり、あるいは、航空機の航行目標として利用されていたこともあるといい、その時代には樹の上に白い十字を掲げていたこともあったといいます。確かに、これだけの太さをもつムクが健康で、先端が損なわれることなく存在していたとしたら、若干高台に立つこともあって、恐らくかなり遠くからでも視認できたことでしょう。

 樹形そのものは悪くとも、健康状態は素晴らしいムク。都区内にいるムクとしては貴重なことは間違いありません。しかし、やはり気になるのは環境の悪化。空気の悪さ、特に排気ガスが増えつづけると、このムクにとっては致命的な事態となります。近いところでは850mの距離に首都高速も走っています。現在は入り組んだ地形と市街地に守られているこの地区も、いつかは近隣の光がケ丘や高島平のような区画整理が行われ、幹線道路が走らないとも限りません。そうなったら、このムクは生きていけないでしょう。人の歴史を知る生き証人のムクを、これからも大事にしていってほしいものです。

 

 境内には他に数本の樹がいますが、その中でも、鳥居をくぐってすぐ左手のヒイラギは印象に残るでしょう。幹は大きく痛んでいますが、それだけの太さもあります。駅から稲荷神社までの途中には、ニリンソウの自生する公園もあります。

 

 

 

 

 

 

 

稲荷神社のムク(稲荷越の大木)

場所 板橋区若木1丁目13番地1号 稲荷神社
交通 東武東上線 上板橋駅 徒歩10分
樹のデータ 幹周4.6m 樹高約25m
保護制度 板橋区登録天然記念物

Mapionで場所を確認する。


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