府中はかつて、崖線(通称ハケ)から湧き出す湧水が良質で豊富な土地でした。その良質な湧水を利用して田畑を耕作し、また、良質な軍馬を生産していました。かつて目黒にあった東京競馬場が府中に移転してきた理由も、この良質な湧水にあったとされています。
ところが、現在では湧水の湧出ポイントは市内に4箇所しかないとされています。浅間山の御手洗神社、清水が丘の瀧神社、個人所有の池、それとこの、西府町にある西府崖線の湧水です。これは、同じハケ沿いの西隣、国立市谷保の湧水群や、北の国分寺崖線にある国分寺、小金井、三鷹、調布の湧水群の豊富な湧出ポイントとその水量を見る限り、市域の広さに対してあまりにも少ないものです。
原因は地下水源の乱開発、耕作地の激減による雨水浸透の減少などが考えられます。市では地下水量増加のために浸透マス設置に補助金を出していますが、設置数も少なく効果のほどは不明です。また、国立付近では、ハケ上の台地の面積が広いのに対して、府中市付近ではハケ上の台地が狭く、充分な雨水の浸透が今後も見込めないのではないかと思います。
市内に4箇所と書きましたが、明らかに湧出しているのが分かるほどの水量があるのは、ここ1箇所です。市はこの湧出ポイントを『府中30景』にも選び、保護を図っています。周囲は保存緑地に囲まれ、すぐ下を農業用水が流れています。鳥の鳴き声も心地よい場所です。このわずかに残った貴重な湧水をいつまでも枯らさないように、見守っていきたいものです。