清澄の大杉

 日蓮上人ゆかりの清澄寺。本堂の前には広い空間があり、その奥に大きな杉が待っていました。何の予備知識もなく訪れた清澄の大杉の姿は、正直に言えば期待はずれでした。太さや高さは申し分のない巨樹なのですが、その樹形にはまったく迫力がなく、元気がない、寂しい、というキーワードが浮かんできます。清澄寺の猥雑で観光化された雰囲気も、私の感情にいい印象を与えなかったのだろうと思います。こんな山奥なのだから、本来は密教的なお寺だったのだろうに……。

 あとで知ったのですが、この杉、かつては同じ大きさの杉が南側(写真の右方向)に並んで立っていたのだそうです。それが1954年、台風によって倒伏。この際、現存する大杉の幹をなめるように倒れたのだそうです。迫力のない枝振りには、理由があったのです。

 樹形のことは忘れましょう。近づいて見ると、その太さは半端ではありません。あまりに周囲が開けすぎているために、遠くからの印象で馬鹿にしていたのかも知れません。南側の幹には痛々しい傷跡が残っていますが、裏側に廻ると、そのごつごつした樹皮の陰影、苔の着生がこのスギの歴史を語ってくれるようです。すぐ東側の斜面の下からも、ただものではない太さのスギが何本もいるのですが、大杉を前にするとまるで若者になってしまいます。

 巨樹写真家・高橋弘氏の著作「日本の巨樹・巨木」によれば、倒伏したスギの年輪から大杉の樹齢は400年以内と推定されたのだそうです。もともとは1000年の大杉とされていたのですから、この数字は驚くべきものでしょう。南房総の環境の良さが、これだけの巨樹をわずか400年で育てたのか。それにしても歴史ある古刹である清澄寺の寺域にいるのだから記録くらい残っていそうなものですが、大きくないうちには人の意識の中に入ってこない、だから記録も残らない、ということでしょうか。

 同じ清澄寺の寺域には、大きなクスもいます。個人的にはこちらの樹の方が気に入りました。

 

清澄(きよすみ)の大杉

場所 千葉県安房郡天津小湊町清澄 清澄寺(せいちょうじ)
交通 JR外房線 安房天津駅からバス「清澄」行き
樹のデータ 幹周15m 樹高約47m 樹齢伝承1000年(現地解説板より)
樹齢については400年という指摘もある
保護制度 国指定天然記念物

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