平久保のシイ

 見に行く前は、多摩ニュータウンの中にある巨樹だなんて、大したことはないだろう、とタカをくくっていました。確かに多摩ニュータウンは緑が多く、綺麗です。しかし、その緑はほとんどが開発に伴って整備された公園であり、もともとそこにあった自然ではありません。開発当初、農家などが大事にしていた多くの巨木が、いとも簡単に伐採されていったという話も耳にしたことがありました。

 だから、「多摩ニュータウンなんて」と思っていたのですが、そのような偏見は大間違いでした。南落合小学校の西側に立つ「平久保のシイノキ」は幹周約4.5m。正確にはスダジイという樹で、ブナ科の常緑樹です。4.5mというと、府中で日常的にケヤキの巨樹を見ている私たちには、幹そのものは、まあまあ大きいかな、という程度。しかし、この樹の存在感は、府中のどの樹にも勝っていると言って間違いありません。その複雑で放射状に広がる枝は、巨大な樹冠をつくりあげていて、道路から見ても惹きつけられるものがあります。すぐ横にあるもう一本のスダジイ(この写真にも黒く写っています)とともに、たった2本で森を感じさせるような樹冠を形成している樹です。

 あまりの迫力・存在感に、私は蚊に襲われながらも、帰り難い気持ちになってしまいました。そのとき、頭上からドラミング(キツツキ類がくちばしで樹をたたく音)がして、見上げると、まさに真上でコゲラが枝を叩いていました。

 「平久保のシイノキ」の周りは、完全に開けた状態で、台風などの強い風が直接吹き付けると、かなりのダメージを受けることになりそうです。ただでさえ樹冠の巨大な「平久保のシイノキ」は、今までも厳しい強風に打たれてきたはずです。それにもかかわらず、この場所で数百年を経て、いまだ支え棒一本にしか頼らずに聳え立っているシイノキ。こんな樹があったなんて……。強烈な驚きと感動を覚えました。

 面白いことに、東京都が樹の前に設置した、東京都天然記念物を示す案内板では、所在地が「町田市小野路町4788番地」とあります。ここは1973年、多摩ニュータウン開発に伴って町田市から多摩市に編入された場所なのです。まさに、歴史を語る生き証人といえる巨樹なのです。

 平久保のシイから少し南へ行くと、幹線道路をはさんで一本杉公園があります。この公園内にも、多摩市の天然記念物に指定されているスダジイがいます。平久保の荒々しさと対照的な、美しい姿のシイですので、ぜひ同時に訪れてみてください。

平久保(びりくぼ)のシイ

場所 多摩市落合4丁目7番地の2 平久保公園
交通 京王相模原線/小田急多摩線 多摩センター駅からバス「一本杉公園」下車
樹のデータ 幹周4.5m(1988年環境庁調査)
保護制度 東京都指定天然記念物

Mapionで場所を確認する。


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