巨樹巡りをしていると、資料の乏しさに不満を抱く人は多くいます。確かに地域の財産である巨樹に、自治体が関心を持たないために情報が不足していることがよくあります。しかし、そういう状況では、隠れた巨樹・名木を発掘する楽しみもあるのではないか、と私は思います。
このケヤキも、偶然から見つけた巨樹のひとつです。別の件で府中市の老樹を調査報告した資料を読んでいた時、ケヤキの箒形樹形の典型例としてこの樹が挙げられていたのです。1988年の環境庁調査では、何故か同じ地名にケヤキの報告が見られません。
いても立ってもいられず、資料をみた翌日には早速清瀬へ向かいました。武蔵野南部ではもはや見られなくなった田園風景が残る道を自転車で走っていくと、突如として巨大なケヤキが出現しました。
1979年に大枝が折れてしまったために典型的な箒形樹形はやや崩れてしまっていましたが、その迫力は凄いものです。背後の社叢林から頭一つ突き出る樹高があり、太さもすばらしいものです。周囲は新しい人家が畑を取り囲みつつあるのですが、高い建物などは一切ないので、ケヤキにはよく日が当たります。根元も丁寧に下草が刈られ、大事にされている様子がうかがえます。神社参道側の根元には若干の損傷が見られますが、それ以外の部分には、外観上まったく痛みが見られません。
上述の資料で知ったのですが、ケヤキの箒形樹形というのは自然にできるものではなく、下枝を落とし、伐採痕を幹に飲み込ませて痕跡を残さず、主幹を真っ直ぐ成長させて作るものなのだそうです。小平市の竹内家の大ケヤキなどもそうですが、これだけの大きさに育つまで、下枝を落とすなどの樹木管理をしてきた先人たちの仕事ぶりには驚かされます。
私は普段、いろいろな資料から樹を探しています。巨樹本はもちろんですが、自治体の刊行物やウェブサイト、民間の郷土資料等々。私は、資料を探すことから、巨樹巡りがはじまっているのだと思います。知られざる資料を見つけ、そこに知られざる巨樹を見つける。もちろん、資料が古くて既に目的の樹が存在していない、ということもよくありますが、訪れてみて、素晴らしい樹と対面することが叶ったなら、多分あなたも、既成の巨樹本にない樹を探す楽しみに目覚めてしまうことでしょう。