あきる野市の雨間というところに、カゴノキの巨木がいる、という話はずいぶん前から聞いていましたが、資料が乏しく、その姿を納めた写真を見る機会はほとんどありませんでした。近くは通るのに、なぜか寄らなかったカゴノキは、いつしか私の中で、会ってみたい樹の上位にどっかりと座り込んでいました。そして2001年の10月、檜原村を訪れた帰り道、ようやく念願のカゴノキに会うことができたのです。
本堂の裏手に回ると、そこは墓地になっていて、向かいの崖の中腹に、大きな樹が1本、立っているのが見えました。あれだ。近寄ってみると、その姿の立派なこと。南側が開けているため、枝を伸び伸びと広げています。
かつてはカゴノキは「ナンジャモンジャ」と呼ばれていました。この言葉は、水戸光圀が家臣に「これは何じゃ」と尋ねたところ、分からなかった家臣は「これはモンジャにございます」と答えたという逸話から、正体が分からない樹を「ナンジャモンジャ」と言っていたのです。東京地方ではほかに、ヒトツバタゴという樹が「ナンジャモンジャ」と呼ばれることが多いようです。ほかに、「地蔵院のイヌグス」とも呼ばれていたようです。「イヌグス」はクスに似ているが材が劣る樹という意味で、主にタブノキに対して使われた言葉なので、同じクス科とはいえ、カゴノキに使っていたのにはちょっと驚きました。
最初に訪れた日は、日没も近かったので、何枚か写真を撮って引き上げました。ところが、その写真がほとんどピンボケで使えないものだったのにはガッカリ。念のため、同じアングルですべて2枚ずつ撮影したにもかかわらず、です。1週間ほどして、別の樹に会うためにあきる野市を訪れ、その時再訪しました。が、この日の写真もピンボケ。仕方ないのでその写真を加工して使用していますが、墓地に囲まれたカゴノキだけに、何かあるのでは、と不安になってしまいます。
(まあ、本当のところは、木肌と葉のコントラストが、デジカメのフォーカスを狂わせているのだろうと思いますけど。)
しかし、樹そのものは鹿の子まだらの明るい幹肌に、のびのびとした雰囲気。また何度か通いたいと思わせる樹です。
ただ、このカゴノキには心配な点があります。樹そのものではなく、周囲の環境です。斜面が竹林。これはちょっといただけません。竹は、横方向には根を張りめぐりますが、縦、つまり垂直方向には根を伸ばしません。ということは、土砂が崩れだすと全体が一気に崩れる、という危険があります。その時、このカゴノキが巻き込まれないだろうか、と心配になってしまいます。
地蔵院にはカゴノキのほかに、地蔵尊と祠との雰囲気が素敵な3株立ちのカヤがいます。また、旧秋川市が選定した「秋川市名木巨木百選」に選ばれたタイサンボク、タラヨウ、エドヒガンザクラがいます。カゴノキの正面にいるサクラの樹がエドヒガンザクラのようで、タイサンボクとタラヨウはカヤの近くにいます。そちらにもぜひ会っていってください。