浜離宮庭園のタブノキ

 中央区というと、銀座。あんな都会のど真ん中に大きな樹があるわけない、そうお思いの方は多いことでしょう。実際、地図を見ても、緑地らしい緑地などほとんど見当たりません。ここ、浜離宮庭園を除いては。

 浜離宮はもとは海岸の葦原で、徳川将軍家の鷹狩場だったのですが、1654年に甲府藩主松平綱重に与えられ、綱重が埋め立てを行い別荘と庭園に作り上げたものです。その後綱重の子が6代将軍の家宣となったため、将軍家の所有に戻り、11代将軍家斉の時代に現在の姿になったといいます。明治維新で皇室の離宮となり浜離宮と称され、戦後、東京都に下賜されています。

 こうした歴史ある庭園には歴史ある巨樹がつきもの。浜離宮庭園の面積は皇居外苑と同じくらい。だというのに、1988年の環境庁調査ではここから39本の巨樹巨木が報告されています。その多くが、タブノキで占められています。タブノキは温暖な海岸性の高木です。この浜離宮がもともとは海を埋め立て、潮の満ち干きを利用した池を持っていることを考えると、特に不思議な植生とはいえません。

 写真のタブノキは正門入ってすぐにいる、樹形の美しいタブノキですが、これは3株立ちのもので園内最大というわけではありません。園内にはもっと大きなタブノキがたくさんいますが、その中で樹形が美しい(唯一開けたところに立っているので)タブノキを紹介してみました。

 園内を歩き回って気になることは、あまりに樹種が単調だという点でしょうか。目立つ樹はほかにエノキ、クスノキ、マツ、。あとは少数の植栽された花木や紅葉する木。400年近く経過すれば、それなりに樹種のバリエーションが増えてもいいように思いますが、やはり管理された庭園だからでしょうか。

 その庭園に気になることがもうひとつ。もとは海に突き出していたはずの庭園も、周囲はだんだんと高層ビルに囲まれつつあります。特に、旧国鉄汐留駅跡では現在、オフィスビル街が建設されていて、タブノキの背後に見えるように、ガラス張りの高層ビル群が立ち並ぼうとしています。このようなビルが周囲を取り囲めば、太陽光が乱反射され、庭園の動植物に悪影響を及ぼすのではないか、と気になります。

 正門近くのタブノキのすぐ隣には、園内でもっとも有名な樹がいます。将軍家宣の時代に植えられたというクロマツの巨樹で「三百年の松」と呼ばれています。土手の上から、土手下へと枝を這わせる、妙なマツです。何しろ根元より枝の方が低いところにあるのですから、マツというのは面白いものです。しかし、この名前、四百年経ったらどうなるのでしょうか?

 

(City of Woods - 杜の街 武蔵府中「今月の一枚」2002年1月掲載)

浜離宮庭園のタブノキ

場所 中央区浜離宮庭園 都立浜離宮恩賜庭園
交通 都営大江戸線 築地市場駅 徒歩7分
JR・営団銀座線・都営浅草線・ゆりかもめ 新橋駅 徒歩15分
水上バス 浅草または日の出桟橋から
保護制度 国指定特別名勝・特別史跡

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