小仏のカゴノキ

 小仏のカゴノキは都天然記念物に指定された巨樹で、裏高尾の旧甲州街道をバスに乗って終点から少し歩いた宝珠寺にあります。しかし、裏高尾とは失礼な名前です。なぜなら、現在の甲州街道(国道20号)が通る前は、甲州街道はこちらを走っていて、しかも高尾山への参道はこちら側だったのですから。現在は京王線・高尾山口駅が表で、こちらは甲州街道も峠の手前で寸断された、ただの田舎になってしまいました。

 宝珠寺は、小仏川に流れ込む支流の合流点にありました。境内に入ると目の前に崖が迫り、その上に本堂があります。カゴノキはその本堂の手前、崖の中腹に幹周約4mの立派な姿を見せていました。太い幹は枝幹の集合体だそうですが、まったく見事に一本となった幹がすっくと立っており、高さ約2mのところから、見事な枝を広げています。似たような樹を見たことがあるなあ、と思って考えたところ、日比谷公園にいる「首賭けイチョウ」に似た感じだということに気づきました。巨木ながら、均整の取れた美しい樹形であるところや、縦に走る筋の感じなど、よく似ています。

 ところで、カゴノキのある宝珠寺周辺は、高尾の山の中にもかかわらず、どうも空気の綺麗さを感じることができません。それというのも、小仏川がつくるこの谷間には、JR中央本線のほかに中央自動車道も走っているからです。豊富な緑があっても、ここでは排気ガスの濃度を消すことができません。裏高尾の地形は、特有の気象条件をつくっていて、上空に空気の逆転層をつくって排気ガスを谷間に閉じ込めてしまうのだそうです。そのせいか、宝珠寺の境内にあるサクラの葉は、紅葉前に多くが枯れ落ちていました。

 その裏高尾にいま、新たな問題が起こっています。圏央道建設計画です。現在青梅まで開通している圏央道は今後、国史跡の八王子城址下を通過し、この裏高尾に到達し、さらに国定公園である高尾山をトンネルで抜けていくことになります。国史跡の小仏関跡がある、旧駒木野宿に近い場所ではすでにジャンクションの建設工事もはじまっています。10月25日には、この計画に反対する市民グループが工事差し止め訴訟を起こしました。裁判では住民の環境権とともに、貴重な自然体系の保全などが争われますが、「国が指定した公園や史跡を、国が破壊する」(訴状、朝日新聞記事より)といった矛盾、公共事業のあり方など、問題が多すぎるように思います。

 今以上に排気ガスが濃くなるだろう裏高尾の谷間で、カゴノキはどうなっていくのでしょうか。それほど影響を受けることはないかも知れませんし、案外簡単に死んでしまうかも知れません。結局のところ、できてみないと本当のことは何も分からないのは事実ですが、「絶対問題は起こりえない」と誰が言いきれるでしょうか。今の状況がもっと悪くなることだけは、防いでほしいものです。自然を壊すことは、結局私たち人間の生命に跳ね返ってくるのですから。

 

 カゴノキは、本来東京には自生しない樹のようです。調布市深大寺にも大木があり、調布市天然記念物に指定されていますが、その案内看板には、「クスノキ科で、関東北西、四国、九州の山野に自生する常緑高木」とあります。不思議な自生範囲ですが、どちらにしても東京ではあまり見かけません。名前は鹿の子まだらの樹皮から「鹿子の木」と名づけられています。

 

小仏のカゴノキ

場所 八王子市裏高尾町1786 宝珠寺
交通 京王高尾線 高尾山口駅から小仏行きバス終点
樹のデータ 幹周4m
保護制度 東京都指定天然記念物

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