高尾山は都心から程近い自然散策の観光地ですが、その前に古くからの信仰の山でもあります。薬王院の古文書によると、創建は744年。1370年代に中興し、その後江戸幕府の開幕もあって多くの信仰を集めてきました。
山内には、蛸杉、飯盛杉といった、有名な巨杉も多く存在します。これらは単木として特徴ある有名な樹ですが、高尾山が巨杉の山として印象付けられる最大の理由は山門前の参道にそびえる、十数本からなる巨杉並木にあるといえるでしょう。
樹齢は1000年を越えるとされていますが、このあたりの数字はどこでも切りよく揃えようとするものですから真に受けないでおきましょう。しかし、そのくらい経っていてもおかしくないのでは、と思わせる風格があることは事実。とにかく、これだけの巨樹が並木となっている場所は都内にはもちろんありませんし、誰もが圧倒されること間違いありません。
並木といっても、実のところ、参道沿いにきれいに並んでいるわけではありません。数本は参道下の斜面から立ち上がっており、その景観も驚くべき壮観といえます。何しろ、同じ斜面から生えているほかの木々がまったく小さく見えてしまうのですから。
残念ながら、1966年の台風26号によって、このスギ並木は大きな被害を被ったといいます。その時失われたスギが今も残っていたら、ただでさえ驚かされる景観が、さらに凄みを増していたことでしょう。しかし、死んでいくのも生き物の宿命です。私たちは、今生きている木々を、私たちの愚行によって死に至らしめないよう、気をつけていけばいいのです。
ところで、高尾山には天狗がいると云われています。天狗は高尾山の精霊であり、生きとし生けるものの代表とされています。その天狗も、この巨杉並木のうちの一本に腰掛け、参拝者を見守っているといい、その腰掛けている杉は「天狗の腰掛け杉」と呼ばれています。同じ名前の杉が御岳山にもいますが、信仰の山ならではの言い伝えでしょう。
なお、同じ高尾山中の巨杉として、蛸杉と飯盛杉を挙げましたが、現在残念ながら、飯盛杉は周辺の園地造成の関係で近づくことはできません。山門内のお手水近くに公衆便所があります。その手前から下る登山道少し下の方に、解説板が見えるのが、飯盛杉です。