大國魂神社のご神木は現在、大イチョウとなっていますが、過去には別の樹がご神木とされており、それは度々代わっています。江戸時代の紀行文には「六所本社裏の大榎」(実際にはケヤキらしい)という表記が度々見られ、1818年当時、周囲3丈2尺(約9.7m)あったとされていますが、その後まもなく枯死したようです。
馬場大門ケヤキ並木の、現在、源義家像が立つあたりにも、樹齢700年とされる、ご神木と呼ばれたケヤキがいました。これは1951年のキティ台風で折れ、その後空洞内の火災などにより枯死、1977年に伐採され、その断面標本は現在、郷土の森博物館の展示室で展示されています。
この切り株もご神木とされた樹の名残です。近年まで生きていたことは、切り株の状態の良さからも伺えますが、いつ切られたのかは資料が見つかりませんでした。樹種はスギです。切り株の内部には後継樹として、スギの若木が植えられています。
スギ、というと今の大國魂神社からは想像できないかも知れません。現在は境内にスギは見当たりません。しかし、戦後しばらくまで、大國魂神社の境内はその大部分がケヤキとスギで覆われた、鬱蒼とした社叢林を持っていたといいます。たくさんいたスギは、府中の都市化、それに伴う地下水位の低下と大気汚染の進行により年々数を減らし、1973年頃、すべてのスギが衰弱を理由に伐採されています。
かつては大國魂神社がスギの樹林だったということを物語る唯一の証人。大きさ、状態とも良好なため、既死樹ですがあえて掲載してみました。