こんなにも大きいのに、美しさも兼ね備えるイチョウはなかなか見つからないものです。
鬼子母神のイチョウは幹周で善福寺の逆さイチョウ、大國魂神社の大イチョウに次ぐ東京都3位のイチョウです。先にこの2つのイチョウを見ていた私は、鬼子母神にも似たような先入観がありました。善福寺の逆さイチョウは焼け焦げた樹皮と発達した気根を持ち、大國魂神社の大イチョウはたくさんひこばえを持っています。つまり、両方とも荒々しく、生存をかけた戦いを繰り広げている、といった印象があります。
それに対して、このイチョウのすらっとした美しさ。気根もないわけではありませんし、折れた大枝もありますが、それが目立たないのは、主幹がしっかりと立ち、それがまた高い、という点にあるでしょう。美しさもさることながら、高さにも圧倒されるものがあります。
また、イチョウというと、割と枝葉が丸くまとまった樹形がよく見かけられますが、このイチョウは違います。それは、横に広がった大枝が折れることなく元気でいるからでしょう。丸くまとまっているイチョウは、大枝がなく、細枝がたくさん伸びてそのような樹形を作っているのです。大きく、高く、元気で美しい。こんなイチョウにはなかなかお目にかかれません。これも、広々とした境内のなせる業かもしれません。
信仰面では、このイチョウには「子授け銀杏」の別名があるといい、かつてはイチョウを抱く女性の姿も見られたといいます。余談ですが、イチョウの子育て信仰には根拠があるようで、イチョウによくある気根にはでんぷん質が多く含まれていることが最近明らかになりました。気根を削って煎じて飲むと乳の出が良くなる、という話が地方によってはありますが、単なる迷信ではなく、経験的に行われていたことのようです。
鬼子母神には、参道に立派なケヤキ並木があり、こちらも東京都の天然記念物に指定されています。